仙台から南へ約1時間、東北本線「大河原駅」から徒歩8分のみんなの放射線測定室「てとてと」。東日本大震災で少々傾き、そこここの壁がボロッと落ちていた「てとてと」の蔵は、持ち主の方の強い想いが叶い、何カ月もかけて美しく生まれ変わりました。ネットが取り払われ、ぐるりと囲んでいた足場が片づけられた蔵を見た時に、2015年秋の契約更新はもうないだろうと覚悟しました。

 だれでも測れる、測って確認できる「町の小さな測定所」でありたいと、測定料金を低く抑えているために、残念ながら測定料収入だけでは測定室の運営は成り立ちません。それなのに測定件数が減ってきていてもカンパ残高を大きく減らすことなく運営できているのは、この蔵を持ち主の方が「活動支援の意味で格安で貸してくださっている」ことがとても大きいのです。そしてもちろん、「てと市」での手数料収入や「はなつちの会」などからのご支援品の販売収入があり、カンパを送り続けてくださっている方々がいらっしゃるからでもあります。

 「てと市」とは私たちが店先で毎週土曜日に開催している小さな市。測って数値を表示して販売する、3・11以降の新しい時代の直売所です。(詳しくは「てとてと」のブログを覗いてみてください。)

 蔵の契約更新ができなかったら、新たに敷金礼金や引っ越し費用がかかり、家賃も上がり、「てと市」もできなくなる。私には「今の形の運営は不可能」と思えました。ところが年明けに打診したところ「佐藤屋プロジェクト」(蔵を含めた古民家を使った地域おこし)に今後は私たちもかかわっていくということを条件に契約更新していただけることになったのです。あと少なくとも2年半ここでやれる・・・なんてありがたいことでしょう。頭の上にずっとかかっていた霧が晴れたような気持ちがしました。

 測定依頼の件数は確かに減ってきているので、「てとてと」は一定の役割を終えたのではないか、という見方もあるかもしれませんが本当にそうでしょうか? 都市部とは違う、豊かな里山に囲まれた宮城県南部ならではの「放射線測定室が存在する意味」があります。測って確認しながら、自然界からいただけるものやいただき方を、それぞれ自分の基準で見つけていって欲しいのです。田畑や山や川、海が分けてくれる食べものだけでなく、薪はどうだろう、灰はもう使えるのかしら(ダメ!)、落ち葉は、びわ葉エキスは・・・?当初はただあきらめるだけだったものを測定してみる人もでてきました。 先日ヨモギの測定申し込みに初めて電話をくれた方がこうおっしゃいました。「草餅を販売しているんです。今年はちゃんと測って胸を張って売りたいんです。」・・・ようこそ!ようこそ「てとてと」へ。測って確認しながらいっしょに傷つけられた「誇り」と「文化」を取り戻していきましょう。

 「てとてと」に来てくださるときの屋嘉比さんはお話をいっぱい持ってきて、帰りには「てと市」でのお買い物でリュックはいっぱい。いっしょにやってくる麦さんを私たちは大好きになりました。黒糖を送っていただいた時に差し上げる電話の声と若き日の写真だけでしか知らない山城さん、お目にかかったことはないけれど「はなつちの会」を支えてくださっている方々と、これからもゆるやかにつながっていけたらいいなと思います。
 あと2年は、「てと市」をできることになって、放射能のことだけでなく沖縄のことも「てと市」で扱っているオリーブ製品の生産地であるパレスチナのこともまずは自分が知って、少しずつ伝えていけるようにしよう、「てとてと」に費やす時間を納得のいく人生の一部にしようと思えました。「てとてと」の仕事に加え、生業である自然農の野菜作りも農繁期に入って頭の中が目下てんこ盛り!!バランスをとることに少々苦労はしていますが、「てとてと」が役割を終える日に百姓として自分の足で立っていたいのです。 東北にお出かけの際にはどうぞ「てとてと」に寄ってください。いろいろおしゃべりしたいですね。

みんなの放射線測定室「てとてと」運営委員 丸森かたくり農園
北村みどり